「大地の歌」に無常の地平を感じる

マーラー:交響曲(大地の歌)

マーラーの「大地の歌」@シノーポリです。
これ、最初の出だしからしてもう、すっっばらしい!です。
グーッと持っていかれちゃう。
初聴きなのに、ぶわっ、と涙が出そうになってしまった。
つかみは完璧オッケー!って感じ。
ポイントは弦、しかもハープかもしれない*1。珍しいな。
でも、ここで打楽器が調子に乗って目立ってると、ちょっと興がそがれるような気もする。オケによって微妙かもしれないという予感はある。
このシノーポリ版は、ぐーーっと来そうなところで、ふっと逸れてしまうような、そっけなさを持ってます。
この点、他と聴き比べる必要がありますね。
私の趣味としては、もうちょっと濃い方が好きそうな気がするのです。
やっぱラトルかな〜。聴いてみたいなぁ。


途中、ちょこちょこと東洋的な旋律が混じるのが、この曲の特長です。
東洋人としては馴染み易い側面があるかもしれないです。
それと、ところどころがハリウッドの映画を髣髴とさせたり、ハリーポッター風味であったりもするんですよ。妙に現代的(しかも大戦時代を飛び越えて、戦後の「現代」)。ポピュラーの先駆のような要素もあるのかもしれない。歌物だからなおさら。
旋律の多彩がいろんな表情を浮かび上がらせてくれて、歌詞のない細かな部分も実にあらゆる歌を「歌って」いるように思えます。


歌詞は、中国詩がベースになってます。
李白や王維、孟浩然、銭起の詩をハンス・ベトゲというドイツ詩人がアレンジ(追創作)したものを使用。
ですから楽曲の世界観は「人の無常」と「変わらぬ自然」という東洋的なものです。
生も暗く死も暗く、でも、大地はそこに変わらずにあり…という。
時は戻らない。全て失われてゆく…というある種、絶望的なモチーフ(この作曲をした頃のマーラーは、不幸のどん底だったとのこと。愛娘の死、自身の心臓疾患発症、仕事上の軋轢、等々。果てしなく厭世的になっていた時期。反面、ものすごく救いを欲していた時期と言えるかもしれない)。
絶望と無常とは紙一重ですが、この曲がどこか明るく、力強い生命力を感じさせるのは、マーラーがこの東洋的な無常観を否定的に捉えておらず、むしろそこに救いを求めているからでは?と思えます。
曲全体の基幹に明るい夜明けの色彩が感じられるのは、そのためかな?と。
悲観的な気持ちになっている人に、この曲は救いになるかもしれない。そんな気がします。
最終楽章の静かな祈りのような終わり方も、とても優しい。
そっと頬を撫でられるような、さりげない励ましを感じます。


ま、でも、やっぱり8番のような圧倒的歓喜からは程遠いので、常時聴くのはツライような気も。センチメンタルな秋の夜更けに聴くのにはよいかも。

*1:厳密にオケでのハープは弦楽器に属しませんけどね。