さあ、予習!ショスタコ攻略月間(2)

てことで、まずはヴァイオリン協奏曲1番を聴きこんでいます。
すでに持っているCDが2枚。
ヒラリー・ハーン@ヒュー・ウルフ指揮オスロフィルハーモニー管弦楽団と、マキシム・ヴェンゲーロフロストロポーヴィチ指揮ロンドン交響楽団
どちらもソリストが好きなので入手したものですが、ヒラリーはカップリングのメンコン(メンデルスゾーンV協)が、ヴェンゲーロフカップリングのプロコフィエフV協が目当てでして…そちらばかりを聴いていて、はっきり言って今までショスタコV協はスルー状態でした。
で、先日図書館から借りてきたのが、ボリス・ベルキン@アシュケナージ指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のものです。ベルキンは、なんと、今度、実際に聴きにいく時に弾くソリストです。
ということで、この3枚を繰り返し聴いて、曲の全体像を掴もうとしているところです。


ちなみに、この曲は1948年2月に始まったジダーノフ批判*1の最中にひっそりと誕生し、発表の機会を待つために封印された後、スターリン死後の1955年(完成から7年の後)に初演を迎える、という背景を持った曲です。
ヴァイオリニストダヴィッド・オイストラフに献呈されていて、もちろん初演時のソリストオイストラフでした。


大雑把な曲構成は次のような感じです。

イ短調
・1楽章・・・ノクターンモデラー
・2楽章・・・スケルツォアレグロショスタコ自身のイニシャルから取ったモチーフ「DSCH音型」が入る)
・3楽章・・・バッサカリア:アンダンテ(主題と8つの変奏→独奏ヴァイオリンのカデンツァ→切れ目なく第四楽章へ )
・4楽章・・・ブルレスカ:アレグロ・コン・ブリオ


えー、簡単に言いますと、夜想曲のような静かなイメージ(でも、そうとう不穏な感じw)の1楽章でちょっとタイクツにさせておいたとおもいきや、「ショスタコ謹製」の署名が暗号のように散らばったいわくありげな展開を入れた悪ふざけっぽい2楽章が続き、さらに旋律の反復を重ねて盛り上げてゆく3楽章のあと、妙に哲学的なカデンツァ(バイオリン独奏)が朗々と、わりと長めに入ったあと、休みなしで4楽章のお祭り騒ぎのような騒々しさのうちにハジケて終わるという感じです。
1楽章で挫折しなければ、あとはオッケー!か。初心者的には。


それぞれのアルバムの特色などを、今気づいている範囲で書き留めておきます。



メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲

■ヒラリー@ヒュー・ウルフ
・全体の印象→きっぱりとした明快さがあります。いろどりが豊かで華やかな印象。録音がクリアで聴き易い。独奏が素晴らしすぎ。
・バイオリン独奏→もう、なにも言うことありません…ただただ溜息。ああ、ヒラリー…大好きですぅぅ(涙)。とにかくもう、最初の1音からして音色が違う!他の誰とも違う。厳然と違う。ヒラリーだけが演奏できる、最上の音色。滑らかなパッセージ、濁りのない重音、澄み渡る高音…何をとっても全てが美しいです。心に真っ直ぐに届く音。すごい。
・オケソリストを立ててくれるオケで、好感は持てますが、オケそのものの音はわりとあっさり・はっきり・軽め。でも、かなりドラマティック!という感じか。
・その他→ヒラリーのライナーで、この曲の背景が解説されていますが(もちろん、ヒラリー自身が書いたものですよ)、それが、とてもわかりやすく、愛があり、ステキな文章なので、これまたメロメロ。彼女は本当に何やっても完璧!不思議なのは唯一つ。こんな完璧なのに、なんでいつも地味〜なオケと組んでいるのだろうなぁ?本人がそういう志向…って感じもするけど・・。



プロコフィエフ&ショスタコ-ヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番

ヴェンゲーロフロストロポーヴィチ
・全体の印象→3楽章で思いっきり涙腺が緩みます。深くて重い、情感ダダ漏れです。重厚なオケに表情のある独奏バイオリンが絶妙なコンビネーションを作ってます。
・バイオリン独奏→ハタチそこそこなのになにこの上手さ!文句なしです。が、スキかと聞かれたら、そこそこって感じ。
・オケ→抑揚があってゴシック的陰影が感じられる重厚な雰囲気。このオドロオドロしさがたまりません。最高。
・その他→スタジオ録音ですが、こんなに絶妙な奥行きが出るんですね…すごいなぁ。ちなみに録音スタジオはロンドンのアビー・ロード・スタジオですってよ!クラシックのイメージなかったけど、そうでもないのね。



ショスタコーヴィチ : ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調 作品77

■ボリス・ベルキン@アシュケナージ
・全体の印象→ひと言で言うと、地味。オケもバイオリンも淡々と、寂寥感をもって進んでゆくイメージで、前衛味があまり出てない。
・バイオリン独奏→全体的に平板な音なんですが、特に3楽章…なんでこんなに歌い方が足りないのだ〜!と思ってしまう。カデンツァも淡々としている。ともすると「ただ弾いているだけ」感が強いんですが…そういうコンセプトなんだろうか?という気も、ふと、よぎる。全体的な印象には統一感があるので。
・オケ→曖昧で、おとなしく、抑制が効いていて、優しげな印象。って、結局は地味、ってことですが。4楽章のブレスクではそこそこパワフルなんだけれども重要なところでモタっているような気がするのはアシュケナージ・クオリティか?
・その他→次回エヌ響演奏会で実際に聴くコンビですから、聴く前からビクビクしてしまいましたが、案の定と言うかなんというか、特別傑出した個性はあまり感じられない演奏で、無難というかなんというか。この解釈を理解する必要がありそうな感じはします。このコンビならではの良さもあるはずなので、そこを見つけられたら楽しいかと思います。



曲そのものに対する感想
思いのほか好きでした、これ。
やっぱすごーくカッコイイです。もっと早く聴いときゃよかったな〜という感じ。
じっくり聴いてみたら、案外す〜っと心に入ってきますね!やっぱり私はロシア物って馴染みやすいのかもしんない。
この分でしたら交響曲もすんなりとイケちゃうんじゃないか?と、調子にのりつつあります。
V協は、1楽章がね…ちょっと自分的には難物だったんですよ。単調で、よく聴き所がわからなくて。で、毎度ここで挫折してたんですよね…始まって数分で。もったいなかったですよ。
それ以降の楽章(2楽章以降)に入ると、俄然精彩を帯びてくる。
3楽章〜カデンツァ〜4楽章の一連の流れなんて、胸にググッとクるんですよ。ホント、ステキです。


演奏家に対する感想
私の好きなのはやっぱり圧倒的にヒラリーの音!です。
これはもう、他は比べ物にならない。
ヴェンゲーロフも上手いけれど、スキかどうかという話になればヒラリーには勝てません。
ヒラリーの音はもう、別格なんですから!(力説)ただ、彼女の演奏がショスタコの真意に適うのかどうかは私にはわかりません。
ヒラリーを評して「現代的」というくくりで片付けてしまう評論家も多いので(あの音を聴いて他に何も思わないのが私には不思議ですが)、なんともいえません。単に私のシュミなのかも。
オケはロストロポーヴィチが良かったです。これも圧倒的です。
アシュケナージはここでは勝ち目はありません。残念ですが。とても無難に、こじんまりとまとめていますが、インパクトに欠けます。それはオケ以上にソリストの責任かも、という感じですが。
でも!実際の演奏はここより数段上にいってるという期待はあるので(だってこれは18年も前の演奏だもん)そっちへの楽しみは増してます(笑)。
当日まで、繰り返し聴き続けて細部まで注意が払えるような状態にしておこうと思います。

*1:ソビエト連邦共産党中央委員会による、前衛芸術に対する統制。なかでもショスタコーヴィチは一番の攻撃対象であったとされる。その理由は、スターリンの嫉妬であるとも言われているらしい。