「だれがクラシックをだめにしたか」

だれがクラシックをだめにしたか
ノーマン・レブレヒト著(音楽の友社刊)
ちょっと過激な書名ですね(原題は「When The Music Stops」)。
でもって、第1章からいきなり某有名指揮者の(誰もが知っているけれど公然の秘密になってる)少年愛犯罪をとりあげていたり、どれだけの器楽奏者が指揮者やプロデューサーの「生贄」になってやっとの思いで職を得ているかということをほのめかしていたりするので、「こりゃもしかしてすっごい暴露本かも」と、ちょっと期待しつつ(?)、やたら長い文章を読んでみたのですが、なんということもないありがちな話でした。
べつに有名人たちの醜聞暴露があるわけではなく、主に音楽産業に関わる「売る側の」人間たち(エージェント、レコード会社、興行主)の動態を内実暴露したような内容なのですが、そりゃそういうこともあるだろうなという感じ。
とりわけクラシック音楽業界だけが腐ってるわけではなく、広くエンタメの世界はこんなもんでしょう、と思われます(ロックやポップスの世界はもっとえげつない)。
「業界」というのは要するに、パフォーマーを使って儲けてそこで甘い蜜に与ろうという人間(要するに合法的契約に基づくピンハネですね)の集まりなので、よほど社会貢献意識に富んだ人が上にたっていない限りは、そりゃもう大変な世界なんだろうなぁーと思うわけです。どのエンタメ界よりもクラシックの場合は興行的に深刻なので不均衡が生じている、というのはあるようですが。


それはともかく、この本の巻末には、これもまた「暴露」なんでしょうが、この本が書かれた当時の一流アーティストたちの契約エージェント、総収入、ギャラが明記されているのです。これはスゴイ資料だそうですよ。
たとえば、ギャラの表を見てみると(1991年〜93年の記録)、ポリーニがベトベンのコンチェルトを演奏すると、1分につき600ポンド(約2万円)の稼ぎを得ている(オーケストラ側からポリーニ側に支払われている)、という数字がそこには出てくる。まさに金のなる木、ですね。(そしてオケはいつもジリ貧、と)
1995年度の推定年収ランキングベストテンは次のとおり。


1 パヴァロッティ・・・1800万ドル
2 ドミンゴ・・・1000万ドル
3 カレーラス・・・1000万ドル
4 ズービン・メータ・・・600万ドル
5 パールマン・・・550万ドル
6 マゼール・・・450万ドル
7 バレンボイム・・・300万ドル
8 アシュケナージ・・・270万ドル
9 ムター・・・250万ドル
10 アバド・・・200万ドル


ボロージャ、8位に入ってますがな(汗)。お金持ちデスね。
収入の主な内訳は、「ベルリンドイツ交響楽団の仕事、ピアニスト及び指揮者としてのきわめて多忙な活動、レコードの莫大な印税」だそうです。
ああ、印税…これ、めちゃくちゃ多そうですね。


ちなみにトップ100の演奏家に選ばれていたピアニストは11人。
アルゲリッチブレンデルブロンフマンキーシンペライアポゴレリチポリーニリヒテル、シフ、内田光子、ツィマーマン。(ああ、この頃にはまだリヒテル存命だったのね)
ほんとうに限られたごく一握りの人だけが人気演奏家になれるのですね。狭すぎる門ですわ。だもん、いろんな面で常人と違ってあたりまえ、だと思います。