マエストロと過ごす夕べ(その2)

(昨日の続き)
「まもなく開演」のアナウンスが流れる中、席について深呼吸。目の前にはTVで見慣れたステージが。
客席の入りは…かなりの空席がある。いいのかエヌ響…
今回の席は私がこだわりを持って選んだ席です。
左翼前方通路側。つまり、音は偏るんですけど指揮者の表情が一番よく見える席なのダー。(果たして私のモクロミは大当たり。マエストロの表情、バッチリ見えましたもん。)



固唾を呑んで見守る中、マエストロ登場。
うわ。ボロージャ!動いてる!(←あたりまえ)トックリ着てる!(←やっぱり)ちっちゃい!でもステキ!
うわ〜うわ〜と感激する寸隙もなく、いきなりタクトを振りはじめるマエストロ。
まずはタケミツの映画音楽です。
これ、私は何の予習もせず本番任せで聴こう、と思っていたので(タケミツを予習…と思っただけで疲れてしまったため。あまり「お勉強」しない方が、現代音楽はいいのかも…と最近思うのでス)どんな曲かは全く知らなかったのですが…
すごくヨカッタです!!
やはり映画音楽というだけあって、タケミツスタンダード(?)とはちょっと違うんですね。聴き易く、キャッチーな曲なの。
こうなるともう簡単に胸を打たれてしまう私は、やはりものすごい初心者なのかもなぁって感じもしますが(笑)。
オケの弦の鳴りの良さにも鳥肌が立ちました。
やっぱりどうしたってエヌ響じゃん!!って感じ。すごい。
やはり日本一のオケなのかもしんない。
エストロの指揮は少々せわしないものの、とても美しくオケを歌わせられてましたよ。
寄せては退く波のように、優雅に起伏を持ちながらどんどん運ばれていく感じがしました。情感たっぷりでしたよ。
「波の盆」では、風が吹きましたからね!
ものすごく気持ちの良い風が、ふわ〜っと全身を包んだような気がする演奏だったの。
ちろっと泣けちゃったね。至福ゆえにね。あふ〜(涙)。


タケミツが終わったあと、今度はピアノが登場。
舞台係のヒトが指揮台の手すりをはずしているのを見て、ちょっと心配に。
いや、ボロージャ、そそっかしくて指揮台から落ちたら困るなぁと一瞬思ったんですよ(笑)。
でも平気ですね、後ろにピアノが来るから。
やがて、ピアニストのレオン・フライシャーを伴ってマエストロ登場。
フライシャーは大きくてノソッとしている感じのヒトです。お病気のせいか、トシのせいか、動きも緩慢。
ちっちゃくてちょこまかしてるヒト(=ボロージャ)と一緒に出てくると、漫才コンビの典型的なバランスを感じさせたりします。


演目はモーツアルトPC12番。
この曲はアシュケナージの何年も前の弾き振り映像を持っていてそれを繰り返し見ているので、もし本人が弾き振りしてくれてたらそれとの比較鑑賞などできて面白かったんですが、仕方ないです。フライシャーに代わったからにはフライシャーの世界を楽しまなくてはね。
フライシャーはさすがに病後&高齢ということもあって、なんというか個性的なピアノでした。
ヴィルトゥオーゾ的なことはできないので、自分の色を濃厚に出してゆく感じ。
えーと、たとえてみると、フジコ・ヘミングでした!指の動かし方なども似てた気がする。


ま、そういうことなので、指揮はやりにくそうでした。
ソリストがいると(そしてそのソリストが独特の世界観を持った人であると)ボロージャの場合はものすごく退いてしまう傾向があるようなので、これはもうしょうがないんでしょうが・・・思いっきり「フライシャーの世界」になっとりました。
指揮はもしかしていらんかも?くらいな(^^;;。
ピアノはアンコールもありました。
バッハのコラール「羊は安らかに草を食み」。
これがまた、フライシャーその人そのもののような選曲であり演奏であったので、さすがだなぁという感じ。
演奏も動きもヨロヨロしているんですが、それさえ生かされてる気がしました。
まぁ、好き嫌いを聞かれたら私はとくに好きじゃないですけど(^^;;。


ピアニストのアンコールに至るまでに出たり入ったりする時に、ボロージャがとんでもなくキュートだったので思わずニタニタが止まらなくなってしまいました。
だって、フライシャーに拍手する時、指揮棒咥えてるんですよ、ワンちゃんみたく。
で、退場する時も指揮棒は咥えたまんまでニコニコしながら足早に退場(コンマスの堀さんににおどけてみせながら。堀さん、苦笑。)
天然なんかな。このトンデモな可愛らしさは。


ここで休憩。
ダッシュでトイレに駆け込み、行列ができる前に用を済ませてホワイエでジマさんと落ち合いました。
ジマさんの第一声→「マエストロって可愛い人だねぇ」。
でしょう!最高でしょ!素晴らしい人なんですよ〜〜。ウルウル。←もう完全に「アナタのトリコ」状態。舞い上がりまくり。
ホワイエでよくワイン飲んだりしてる人いるけど、私もいつかああいった余裕のある鑑賞者になりたかね。
もう、なんだかドキドキそわそわしちゃってて、ゆっくり茶を飲む余裕もナシです。ああガキ臭いこと。
で、あたふたしてる間にすぐに休憩時間も終わり。


いよいよ待望のブラ1です!
ああ…これをどんなにか聴きたかったか。と、今やブラ1大好きオンナと化した私はドキドキです。
結論から言うと、もうね…最高でした!!
朗々と、堂々と、歌い上げるような…天に抜けるような、ブラ1でした。
ジマさんはブラ1のマエストロを「急に大きく見えた」と言ってましたが、まさにそうです。
2楽章のおしまいの指揮はちょっと「あれ?」みたいなのがあったけど、それは私の気のせいでしょう。
だいたいね、オケをあれだけ歌わせられていれば、指揮の「振り」が不恰好だろうが関係ないですよね。
てか、ボロージャはめちゃくちゃ格好良かったんですよ。
本当にオトコマエでした。泣けちゃうくらい。「可愛い」じゃなかった。もっと全然スゴかった。やっぱり「マエストロ」だわさ。ハナたらしてるだけじゃないぞ(笑)。
今日もひっきりなしに顔をハンカチで拭いてましたけどね。ものすごい寸隙を縫って鼻拭いてたし。パパッと。
汗かきなんだな。ステージ前は水物を控えてみたらどうでしょうか?なんつって。


普段、某巨大掲示板でさんざんバカにされているのを読んでいるし、評論家からも「ピアニストとしては最高だが指揮者としては…」といわれる人なので、正直言って不安でした。
もしショボかったらどうしよう…それを見て失望しちゃったらどうしよう…一瞬で醒めてしまったらどうしよう…と。
でも、そんなことは全くの杞憂でした。
ボロージャは予想したよりも遥かに格好良く、遥かにスゴく、そこには豊かな音楽が流れていました。
でもって私は予想したよりも遥かに彼のことを好きになってしまいました。


演奏が終わり、ブラーボ!!の嵐の中、団員さんもマエストロも大満足の笑みを浮かべておりました。
きっと団員さんたちの間でも今日の演奏の満足度は高かったのでは?そんな雰囲気だったデスよ。
でもその時、ちょっとしたアクシデントがあったのでした。
いきなり私の斜め前方のおばあさんが立ち上がり、大きな紙袋(たぶんプレゼント。お花が入ってるのが見えた。)を持ってフラフラと舞台の方に…。
え!今、それをやるんですかいおばあさん…と、他人事ながら狼狽しつつ見守っておりましたら、案の定、拍手に包まれて舞台袖を行ったり来たりするマエストロはまったくおばあさんの存在には気がつかず(そもそも気づいても受け取れる雰囲気じゃナシ)、おばあさんは呆然と舞台のまん前に立ち、衆目の中、舞台下で紙袋を上げたり下げたり、マエストロを呼び止めようと合図を送ったり…を虚しく繰り返すのでした。それもかなりの長い時間。
あちゃー。
アンコール曲が始まってやっと係員がおばあさんをどけたのですが…あれで興がそがれた人たくさんいたと思いますよ。私はもう、とんでもなく悲しくなってしまいました。
おばあさん、悲しすぎますよ…という同情もあるし、自分の大事な人が恥をかかされたようなイヤな気分(?)もあり。あんなことして他の皆さんに「アシュケのファンってマナー知らんのな。」くらい思われたらどうすんの。
もう…ヤメテよ(涙)。
熱烈なファンでもいいし、お花渡してもいいけど、空気を読もうよ!マエストロを大事にしてよ。プレゼントあるなら係の人に渡すとか、終わってから楽屋口行くとかすればいいじゃない。なんでステージで渡す必要があるのですか?なんでそんなアピールをするの?


長くなったのでいったん止めます。まだ続きます。