愉しき宵。ホールの片隅で思ったことなど。

えーと、話が長いです。
しかも自分のことしか書いてないので、コンサートの内容がどうだったかなど知りたくてここに迷い込んでこられた方はどうかスルーしてくださいな。


前述のようなわけでキーシンのリサイタル、2度目に行って来ました。
今回は前回と違って、時間的にも気持ち的にも余裕を持って出かけましたよ。ちゃんとオシャレもしてね。
可愛いお嬢さんモードで。って、つまり私の気持ちが、ってことよ。実際見たらとても「お嬢さん」じゃありませんが。


開場10分前に着いてのんびり辺りを歩くことができました。エントランス前でこんな写真取る余裕もあり。
(入り口脇の花壇です。今を盛りに咲き乱れる美しいお花たちもキーさんのリサイタル開催を喜んでいるかのよう。)


中に入ってからも、こんなものを買う余裕があり。
ウィーンフィル来日記念トートです。2500円也。バイオリン柄が気に入って購入。)


誰もいないホール内部を撮ってみたり(この「P」扉から入るとステージ裏の席。)


今回の席はPブロックといってステージの真後ろだったんですが、これが実はすっごいいい席なんです。
前回の席よりぐんとキーシンに近いし、顔はよーく見える。(ステージより高くなってる場所なので)視野も広く取れるから、頭の先から足元まで…なんと手元まで見える。感動。
ピアノの音は多少くぐもって聴こえるものの、大して気になりません。特にキーシンはね(がんがん弾くからどこでも聴こえる)。
なんでここがD席で5000円なんだろうか?
前回のS席は17000だから3分の1以下の値段ですよ?でも、状態的には3倍以上いい席だ。チケット販売の不思議なところだねぇ。
今度からピアノのリサイタルだったら最初からこの席狙おう。オケはまた別問題かもしれませんが…それでも指揮者のファンだったらこの席ってたまらんと思う。あと、実際にオケに参加してる気分を味わいたい人とか。
加えて今回はオペラグラス持参で行きましたので、もう!キーシンは触れられるかと思うほど近くに見ることができました。ドアップで。あううぅう心臓がドキドキ。


前回、「キーシンは唸ってた」と書きましたが、近くで聴いたらあれは「唸っている」のではなく「歌っている」のでした!
その微かに(でも結構よく)聞こえるイカシたバリトンに、くらくらしましたよ。
打鍵はあくまでも強く、ガーンと弾いてペダルでブォーみたいな、とにかく激しい演奏。
キーシンが大きく見えました。ロシアイズムの雰囲気が濃厚に漂ってるような?
ベトベンもショパンも、どちらも完璧でありながら奇妙に従来のものと違ってるんだけど、でもすごく良かったです。
圧倒的なフォルティッシッシモ(fff、ね)に、優しいピアーノ。その強弱のつけ方はまるで「ビックリ大会」で、これはニガテな人も多いだろうなぁーって感じですが。
緩急も「急」中心でガシガシ行くしね。
現に私の隣に座っていた人は、休憩時間に連れの人と、「いかにキーシンの演奏が自分の好みではないか」を、この「過剰な」演奏法を説明することで事細かに話してました。耳ダンボで聞いてたんですが、ちょっと勉強になりましたね。その人の言うことはすごく真っ当だと思いました。あとは好みの問題。
私ももともと「ビックリ大会」はあんまり好きじゃない。でも、キーシンがやるのは大好き。キーシンは緻密で正確だという前提があるし、ただ乱暴なだけではないからね。専売特許だから他の人のするのは好きじゃない、ってこともあるかな。要するにキャラでしょう。キーシンが大人しく弾いてたらそれはもうキーシンじゃないしさ(笑)。


とはいえ、実は私は今までずっとキーシンの立ち位置を「正統派」で「優等生」で…とどこかで決め付けていたんですよね。だから、前回聴いたときは、あまりにも激しいその演奏に戸惑っちゃって、あらぬ妄想を抱いたんです。
つまり、キーシンは何か「もがいて」いるのではないか?とか、ツライのかも、とか、孤独なのかも、とか。
要するにちょっとマイナス思考気味にね。
でも、今日のステージを見たらはっきりわかった。
キーシンは確信的にこう弾いているんだ、ということが。
しかも自信満々で。
悩みを抱えてステージに上ってたりしてはいない、と。
「これが自分だ」と、いうオーラを全身から放出してる。
本人、ノリノリじゃんw?
それを感じると同時にキーシンの前にあるとおもっていた「壁」が、霧のようにきれいに消えてゆくような気がしました。
もともとそんな「壁」があったのかどうかさえ怪しいわけですが(私の脳内にあっただけか(汗))。
とにかく、今まで見えてなかった「素」の彼が見えてきた(気がする)。
で、そこにいたキーシンは想像以上にめっちゃくちゃ男臭くてカッコイイのでした。


「神童」だったころの彼を見たり聴いたりしている人は多いし、その頃の天使のようなビジュアルの記憶とあいまって、彼のことをとても繊細で神経質でイイコちゃんだというイメージを持っている人は普通にいる。
私も、後追いでファンになったにも関わらず、少なからずそう思っていたし。
でも、案外それって妄想かもよ?
キーシンはちゃんと34歳の大人の男で、しかも誰よりも早く世に出た分とても経験値が高いわけだし、演奏家としての自負もあるはず。周りがあれこれ心配するまでもなく、しっかりと自分のことは見えているでしょ。当然。

そんな確信的なプロ中のプロをつかまえて「何か迷っているのでは?」とか「壁にぶつかっているようだ」などと穿った見方をするのはもう、笑止でしかないですよね。いつまでも神童あがりみたいな扱いしてるからそんな余分なお節介が言えるんじゃないの?
「ふざけんなよ。」と、本人だって思うかもw(だからインタビューが嫌いなのかもしれない?)
最近では自分の個性を確立しつつあるように思うけど、それはもう鋼鉄のロシアイズムみたいな方向性なのかな、とも思うんで、あるいは、天使が屈強の男になってゆくのを認めたくないファンが多いとか…もあるかもしれないですね。
要するにそれって、真逆にベクトル変換しなくちゃならないほどのシュミ違いであるわけでしょ?あまり認めたくないんだろうというのはわからなくもない。

きっと、聴衆よりうーんと先にキーさんは進んじゃってるんですよ。追いついてってる人がめっちゃ少ない気がする。
遅れをとっている私たちが後方でウダウダとキーさんの心配しているうちに、キーさんはどんどん先へ行っちゃう。
置いていかれたくなかったら、しっかりステージにいる彼と対峙するしかない。先入観なしで、今そこにいる彼だけをちゃんと見るしか。


(以下、見たくれ萌え話が続きますのでさらに注意。)


今回思ったことはね、キーシンはやっぱり「ロシアの大男」なんだなぁーってことです。
キーシン(のピアノ)はマッチョだからイヤ」という意見を以前聞いたことがありますが、今ならその気持ちがわかる!
彼のピアノは確かにマッチョだ。男のピアノ。女には絶対に弾けない。
とにかく打鍵が強い。ピアノが壊れてしまうかもというくらい、ガッツンガッツン容赦なく責めてくる。
無骨なガタイで、バリトンでウーウー歌いながら、オノレに陶酔したような顔で、ピロートークもなしに、それだよ。
かと思うと、いきなり優しくなる。甘い囁きにホワ〜となる。態度の急変に物凄い勢いで翻弄されてくアタクシ。
しかも黄金の指はどこまでもなめらかにウットリするほど超絶技巧。で、時々(ホントに時々)ニッと口元が緩むんですよぅ。
…ノックアウト。→撃沈。


もうね…濃いよ。
ラクラするよ。エロすぎて(爆)。
ピアノを離れると急に子供っぽい笑顔になって不器用なまでに品行方正なのがまた、ちょっと反則くさい。
どれがホントのキーさんなんだか混乱しそう。
でも、どれもホントのキーさんで、キーさんの内面はかくも多彩であるのだね。


オペラグラスで見ると、やっぱり肉付きはよろしくて、「たっぷり」って感じでした。
貫禄ありますよ。
顎周りもお腹も太ももも、たっぷり。髭剃り後のザラ感もなかなかセクシー。
髪は栗色。さすがに手のつけようがないくらいのクセ毛とお見受けしました。
燕尾服の襟元にはト音記号(Gクレフ)の金色のブローチが。
「あ、可愛い♪」と、こういうところでヲトメ心をくすぐるのもオッサンのあざとい戦略(?)だったりなんかしたらそれも嬉しいなぁ〜なんてね。
つかもう、結論を言えば、全てが叫びたいほどカッコイイんだよ。
ごめん!あーだこーだ言って、結局言いたいのはそれだけダ。
というわけで、私は見事にキーさんに持っていかれてしまいました。
激オチしてしまいました。我落了。
実は最近ちょっと腰が退きかけてたんですよね…。
音楽だけ聴ければいいや…とか、ファンでいるのは重いかも…なんてのも思ってた。遠すぎて、疲れてた。
でも、昨夜のステージで全部それらが反転しました。彼の中の屈強な男性性とかロシアっぽさに気づいてしまったせいもある。何よりもその演奏にちゃんとした「核」を感じられたからでしょう。
もう、好き好きめっちゃ好き!やっぱりキーさん大好きだ!とボルテージが急上昇しました。
ホント、行って良かった(…のか?頭の中にお花が咲いたが)。

やーもー、できるならずっと見てたい。
この世界にエフゲニー・キーシンのいることのヨロコビに頬が緩みっぱなしデス。


あ、ちなみに、サイン会などはこれまたあったかなかったか知りませんですが、それはもう私の欲望の対象外でしたので、帰ってきてしまいました。
アンコールは7曲。最後は全員総立ちでのスタンディングオベーション。会場は暖かい空気に満ちました。
キーシンは満足そうに、そして幸せそうにうなづいてました。私も幸せでした。
終わったのは10時です。終電に間に合う親切設計。
ありがとう、キーさん!
また逢える日を楽しみにしてます。